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ラズベリーの実を収穫

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 春の深まりとともに花木や草花が次々と花を開かせて、まるで万華鏡を見ているかのように目まぐるしく景色が移って行きます。園芸作業に追われながらふと見るとラズベリーが実り始めていました。さっそく熟した一つを口にしましたら、その香りに私はロンドンでラズベリーを摘んだ場所に呼び返されたような気がしてびっくりしました。匂いや味は深く眠っている記憶を呼び覚ます効果があるようです。

あちらでは鳥に食べられないように周りを全部網で囲って大きなケージを作っている家も多く、その中に人間が入って摘みますが、それほどに人気の植物と言えるでしょう。

ロンドンからちょっと北に離れた立派なお屋敷の友人宅では、そのケージの中で実がなり過ぎるのでしょう、私たちに自由に収穫させてくれたことがありました。

私たちの本帰国がいよいよ実行段階にという時に家の建物が大きな災害に遭ってしまって、保険会社が用意してくれた貸家に結果的に1年も移り住んだのですが、そこの庭の芝生の間には数本のリンゴの木、そして奥の方にはラズベリーのケージがありました。でもあの時は間もなく帰国するという意識のせいか、たくさん収穫してジャムにして貯め込もうという気にはなりませんでした。

ラズベリーと言えばオペラの幕間にいただいたサマープディングが印象的です。イングランド南岸のブライトンに近いグラインドボーンでオペラを鑑賞した時の事。その幕間には正装した観客が庭でピクニックを楽しむのですが、私たちのデザートは夏の果物を一杯に仕込んだサマープディングでした。緑の芝が広がる庭園に組み立てられたテーブルの白いクロスの上で、ケーキはしっとりとしたラズベリーの赤紫色に染まっています。口に入れると香りがいっぱいに広がり、さらに冷房なんて必要のない短い英国の“気候”の味付けが加わって、実に爽やかでした。

たった一粒のラズベリーは、驚いたことに私のまわりにあの時の涼しい風を一瞬吹き付けて、するりと通り抜けて行きました。その日から私は毎日熟れた実を摘んでいます。あまり可愛がってあげていなかったのでそれなりの小粒の実で、量も多くはありませんがそれを集めてジャムにしようと思っています。



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