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日本ミツバチの蜂蜜をいただく

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2018年5月撮影
 ご自分で育てた日本ミツバチから蜂蜜が採れたからといって、蜜の一杯詰まった瓶をいただきました。日本ミツバチが数を減らしているとか、その将来を心配する話を耳にしたことがありますので、よかった、元気で蜜をつくってくれる蜂がいるね、と一安心してからその蜂を飼っている方に感謝し、蜜を珍重していただいています。正確に心の内をいえば蜂を守ってくださっている“という方がぴったりするくらいにありがたく感じています。
 お付き合いのはじめは近所にいる夫の幼友達が、ロンドンの我が家にみえる時にご一緒に来訪予定のその方を紹介してくださって以来です。幼友達は退職してから蜂などを飼ってみたり山に行ってシイタケ栽培の手伝いをしたりしているようですが、その方に指導してもらっての事だったので“僕の師匠”と表現しました。以来私もその呼び名を心の中でつかっています。
 師匠からは蜂の飼育以外にどんなにたくさんのことを体験させてもらったり習ったり発見したりしたかを彼が話してくれた時、私は感動してこう叫んだのを覚えています。
私は孫弟子になる!!
 夫の友人は“兄弟子”で、私はそのまた弟子の“孫弟子”というわけです。本帰国して新生活がスタートしたらそのようなこともしてみたいなんて私は夢を大きく広げて、そう言ったのです。実際には蜂を面倒見るよりも双子の孫が生まれてそちらの手伝いが急を要し、それがいまだに続いている有様でとても弟子にはなれませんでした。師匠“は兄弟子も孫弟子も一切ご存じないことですし、弟子になりたいなんてことはただ私の心の中での蜂やトリを飼う生活への片思いでしかありません。
 
 蜂への思い入れは、蜜蜂が突然巣を捨ててどこかに飛び去ってしまう、あるいは大量に死んでしまうまるでサスペンスまがいの不思議な事件が世界中で頻発していると知った時からです。アメリカでは2006年から2007年に養蜂の25%が消失したといわれています。
 蜂群崩壊症候群(ColonyCollapseDisorder)と呼ばれています。原因については農薬などの化学物質やウィルス、ダニ、あるいは農薬の影響から逃れられない生育環境などのあれこれが疑われていますが、実際にはたくさんのことが複雑にからみあってのことでしょう。一番疑われているのがネオニコチノイド系の農薬だと知ったヨーロッパではその使用を規制したそうですが、日本では逆にその農薬の規制緩和が進んでいるということです。
 西洋ミツバチに比べて日本ミツバチは薬の影響をはるかに強く受けるという論文もあるそうで、それならばなおのことその農薬の使用を禁止するべきと思うのですが、実際はその反対というのです。それにミツバチに悪いものは人間の胎児などにも大きな影響を与えているはずですから、まだその農薬が原因と断定できていないからといって放っておくのは納得のいかないことです。
 私の育てている数少ないイチゴのなかに変形の実が出来たことがありました。はじめはなぜそんな実が出来るのか不審におもっていたのですが、受粉できないと正常の形になれないと分かりました。日本の農業でおおく行われているビニールハウスのイチゴなどでは、蜂を放して受粉させるそうです。だからもし蜂がいなくては受粉が出来ず、人手で代わりが出来るような作業ではないので栽培できなくなってしまいます。現在養蜂家はそのために蜜の売却だけでなく蜂の貸し出しで収入を得ているそうです。
 ビニールハウスのイチゴだけでなく、農作物の多くが蜂にお世話になっているわけですから蜂がいなくなっては農業がなりたちません。農業のみならず。自然界の多くの植物が受粉でき、次世代の種ができるわけですからそれをする蜂がいなくなると、『人間は4年しか生きられない』とアインシュタインが言ったとか言わなかったとか取りざたされるほどに地球上の生き物の死活問題に直結するのです。
 そんな恐ろしいことが起こっていると知って悲観的な私は周りの蜂がすぐにも一匹もいなくなるような恐怖を覚えました。ですから天気の良い日に庭にいて樹木や草花の花のまわりを飛ぶ蜂の音を耳にすると、心が安らかになるのです。我ながら短絡的で能天気も良いところです。
 うわさは先走ってきこえてくるものです。
 ロンドンでいくつかあった日本の有名デパートにもう一つそごうデパートが加わったころ(1992年)、あそこはできてもすぐつぶれるとききました。そんなくらいなら大きなお金をかけてロンドンくんだりまで来なければよいのに、とおもったのですが立派なお店は一等地に華々しく開店し、7年くらい続いてからうわさ通り潰れました。
 航空会社しかり。なにしおうJALが潰れる時もそうです。危ないといううわさがきこえてきても、ゴルフ大会を何事もないように以前と同じに主催し、表彰式はチャールズ皇太子ご夫妻がご臨席で取り行われているのを見て、潰れる話ってどうなったのかしらといぶかしんだ記憶があります。
 うわさが事実になるまでは結構時間がかかるものだから、今年ここで蜂蜜がとれたからと安心できるものでもないのですが、とりあえず師匠の蜜蜂飼育の腕前に敬意を表してその甘みを楽しんでいます。
 なお、師匠は別に養蜂家ではなく、自然にどっぷり浸かる生活を始めたのは引退してからのようです。山羊の乳が人間に良いと知って飼い始めてその乳を採って飲み、本来なら闘鶏用のシャモを採卵用として育て、シイタケも育てたり、山のタケノコを掘ったり、たくさんの人に分けてあげたいと果物をあれこれ植え、まるで『エデンの園』みたいな楽園を作ろうとしている実行力のある夢想家です。我が家は毎週一度山羊乳とシャモの卵を分けていただいて、師匠の夢のおこぼれにあずかっていますが、そうやって他人にまで幸福を分けてあげているなんてすばらしいことです。私は孫弟子にはなれなかったけれど、その方の生き方はやはり“師匠”以外のなにものでもないと思っています。

●写真
分封するために新しい巣箱を探しているところ。
残念ながらこの巣箱には住みつかなかった。



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