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山の作業場で海水から塩を作る話

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海水から
 草花や野菜育ての様な自然と密接な暮らしをしていると、季節ごとに決まって取り組む仕事がたくさんあります。冬には落ち葉の腐葉土をつくるとか、もみがらの堆肥を作る、バラやブドウ、キウイイチジクや落葉樹の剪定など、冬らしい作業がたくさんありますが、そのほかにここでの暮らしではちょっと変わった作業として塩作りがあります。
 その作業をする場所は丘程度の高さの山の一部ですが、そこは師匠が果樹やシイタケやハチ飼いやもっともっといろいろな夢を実現させるために5,6年くらい前にわざわざ購入しました。ユンボという重機まで購入して自在に操れるようにお稽古し、斜面に5段くらいの平面をつくり出して、その一角に製塩用に煙突をつけた特製のかまどをしつらえています。
 塩作りは私がやりたくてもできる話ではなく、師匠がご自分のなさりたいことに兄弟子を引き込み、そのついでに我が家にも参加させていただいて一緒に作業をしているという訳です。何しろ300リットルとか500リットルとかの海水を、海水のきれいな場所を選んでタンクに汲んで二人の車で運んできて、それをかまどの近くにユンボで据えつけるのですから、生易しい事ではありません。海水を運ぶ師匠の2トントラックはダンプカーですから、力強く働いています。我が家では毎年、彼らが準備した海水に火を入れる段階から仕事に入れていただいています。

塩造りの工程
 “塩作り”は、直径90センチ近くて深さ30センチの平たい鍋をかまどにのせて、海水を注いでふたをすると始まります。日中だけですが火を絶えず燃やします。これは不要な木切れなどを燃やしたりしてお掃除を兼ねた一石二鳥というわけです。少しずつ蒸発して中身の減ったなべに新しくタンクから海水を足していき、塩が結晶しはじめたらざるですくい取ります。一通り終えるのに3日かかります。後に残った茶色い水がにがり”です。
 自宅に持ち帰った水を含んだ塩は、大きな平ざるにふきんを敷いて広げて干します。数えていませんので何日干したか覚えていませんが、私は水分がすっかりとれたと確信できるまで充分干してから貯蔵びんにいれます。

おいしい!!
 兄弟子のお孫さんは「この塩でつくったおにぎりでないとおいしくない」と大層なお気に入りだとか。他にも「料理にこの塩だけしかいれなかったのにおいしいおいしいといわれた」「買ってきた貝に普通の塩を入れても貝が潮を吹かないのにこの塩を入れたらすぐ元気に潮をふきだした」などと、自然なミネラルを含んだ塩は大好評です。

 在英のときは、お隣のフランスのゲランドで昔ながらの塩田でつくっている塩をつかっていました。世界のシェフの垂涎の的とまで言われているミネラル豊富な塩でしたから、始めてそれを使ったときは、私も「料理の味がちがう」と感動したものです。帰国したらフランスのものを楽に手に入れられるかと心配していましたが、今はそれを買う必要はなくなってしまいました。

 “郷に入っては郷に従え”どころではない、贅沢極まりない塩を“夢追い人”の師匠のお世話でご一緒に作れる幸せは言いつくせないありがたさです。



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